* ケガあひるの発見 * | |
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2003年4月。明石公園の西の堀でのことです。 堀の柵の内側に上がってきているあひるを見つけました。 かなりの高さですが、写真上部の土手から伝ってきたようです。 そんなのは初めてのことです。様子も明らかに人を呼んでいます。 見ると右目をケガしています。血は止まっていますが目が開いていません。また、足のこぶも目立ちます。 カラスか猫にでもやられたのでしょうか。3羽のあひるがその子のすぐ下でうろうろ泳いでいます。 私はセンターの人に報告に行きました。すぐにいなくなった様子を見て、病院に連れて行ってくれたと思い安心しました。 | |
1週間してもあひるの数が戻らないので、センターに問い合わせに行きました。 「アヒルは公園が飼っているのではないし、野鳥でもないので病院の費用も出ず、滅多なことでは連れて行けません。 他のアヒルにいじめられているはずなので、他のアヒルがいない堀に移しました」 私は他のあひるはその子の事を心配してうろうろしているのだと思っていたので、信じられませんでした。 移動先は公園の東側、大通りには面していない、薬研堀と呼ばれる堀です。 公園側の事情もわかりますが、とにかく、その子はケガしたまま、駅前ほど人目につかない堀にひとりぼっちです。 急いで様子を見に行きました。 |
* がーこちゃん * | |
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そこは、ちょっとした楽園でした。 | |
公園の敷地とはいえ外に面していて、住宅街の中でした。水から上がれる場所があり、草も木もありました。大きな池で、亀もたくさんいます。前の環境より明らかに良いです。 池のこちら側にアヒルの姿は見えません。小学生が「今日はアヒルちゃんいないねー」と言いながら通り過ぎます。 そのうち、犬の散歩のおばさんが手を叩きながら「がーこちゃん、がーこちゃん」と呼び始めました。その方に話を聞きました。 「がーこちゃんはね、いつも呼んだら来るのよ」 色んな人が毎日エサを上げてくれているそうです。ずっと昔からだと言います。 私が知ってる子なら1週間前からのはず・・・ 私は柵を越えて池の向こうの端まで「がーこちゃん」を呼びに行きました。 | |
いました。草の上で昼寝をしていたようです。煮干に気付いて元気についてきます。 煮干を投げながら連れて来ると、おばさんはパンを投げ始めました。 水に落ちたり、草の上に落ちたり。「がーこちゃん」はすごい速さで水から上がったり降りたりしながら食べます。すごい運動能力です。サンちゃんには真似できません。とても元気です。 | |
投げながらおばさんはがーこちゃんの話を始めました。 「がーこちゃんはたまについてきちゃって、道路に出てきちゃうの。そしたら皆で交通整理するのよ」 「がーこちゃんは前にケガして入院してたらしいの。3ヶ月くらい経って、帰って来たのはつい1週間前よ」 私は、言えませんでした。 この子は、3ヶ月前の子とは違うって。目はほぼきれいに治ってるけど、私が見つけたあの子だって。 前の子は行方不明なのでしょう…。1週間前に堀にあひるが戻って来たことで、誰かが「きっと入院してたんだ」と言い出したのでしょう。 どういうわけか、長年あひるを世話してきた人たちにも見分けがつかないくらい、がーこちゃんは初めから人懐っこいのです。夜も前の子と全く同じ場所で眠るのです。 おばさんには、その子が女の子であることと、野菜や果物の皮等も食べることを話して別れました。 私もおばさんに会えてとても嬉しかったし、おばさんも喜んでくれました。 思い起こせば、サンちゃんに会う少し前、西の堀にはオス1メス2の中に入っていこうとして、メス2に追い払われているメスがいました。 たぶん、サンちゃんより少し前に捨てられた子なのでしょう。 あひる社会には入っていけなかったけど、がーこちゃんは、もうひとりぼっちではありません。 |
* ご対面 * | |
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5月の連休に、サンちゃんはがーこちゃんに会いに行きました。 | |
サンちゃんもがーこちゃんもあひる友達がいないから、仲良くなれたら素敵だと思ったんです。 最初はサンちゃんを抱いて様子を見ようと思ったのですが、サンちゃんはがーこちゃんに興味を持ったらしく、すぐに降ろしてぇと言い出しました。 | |
降ろすと、私と妹のあゆがハラハラするくらい迷わずがーこちゃんの方に寄っていったのですが、がーこちゃんの方は、「なによアンタ」と言わんばかりにけん制してきて、何度目かに本当につつかれました; それからサンちゃんは怖くなって、ずっと抱いておくことに…。 小一時間程の間、がーこちゃんに餌を上げる人が2組いました。またいろんな人とお話しました。前回のおばさんにも会えました。 通る人通る人が声をかけあったりがーこちゃんを気にしたり、みんな家族のような、暖かい人達でした。 ←逃げ腰サンちゃん。 |
* その後 * | |
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がーこちゃんの姿が見えなくなりました。 母が仕事帰りにたまに様子を見ていたのですが、堀の死角にいることもあるので、見えなくてもあまり気にしていませんでした。 8月になって、もう一月くらい見ていないことを不審に思った母が、堀の前で小学生に訊ねました。 「ここに前アヒルちゃんがいたと思うんだけど、どうなったか知ってる?」 「猫に食われた。おれ見たもん」 猫は成鳥のアヒルにとって、普通は天敵にはなりません。 アヒルは牙も爪も無いけど、体が大きいので、猫も攻撃しようと思わないからです。 しかも、あの運動能力を誇るがーこちゃんです。猫にやられるなんて信じられません。 いつもがーこちゃんと顔を合わせる猫がいるけどお互い知らんぷりだと、おばさんも言ってました。 明石公園には捨て猫も増えているので、お腹を空かせた猫が新たにやってきたのでしょう… 飼いアヒルを捨てるのは、殺すのと同じことだと私は思っています。 人間によって沢山食べて早く太るように作られた動物であるアヒルは、気まぐれに投げられる餌だけではお腹を満たせません。 (中にはそれを見かねて毎日欠かさず餌をあげてくれる人もいらっしゃいますが…) 空腹の状態なのに、ある日突然自分のテリトリーに「新入り」が現れたら… 仲良くなれるのは非常に稀なケースで、ほとんどの場合新入りはいじめられます。 飼いアヒルにとっては、野良アヒルより人間の方が親しい友達です。 捨てられたアヒルに、飼われる以上の幸せは待っていません。 捨てた人にこの結末が伝えられないのが、とても口惜しいです。 捨てられたアヒルが、「がーこちゃん」という名前をもらって、可愛がってもらえたのは、とても幸運なことでした。 がーこちゃんはあの堀にいる間、幸せだったと思います。 捨てられた彼女に神さまがくれたひとときの幸せなのかもしれません。 とはいえ、たった3ヶ月の幸せでした。 |
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